MIYAZAKI LOCATION GUIDE 2006
脚本家 荻田芳久 効率一辺倒の観点からは無駄とされがちな間のある地。 荻田芳久
スローライフ

 宮崎県椎葉村を舞台にした乃南アサの青春小説『しゃぼん玉』を映画化する準備の ため、『ウルトラQ』『スタートレック』といったコアな夢のある怪獣SFものが大 好きな県観光・リゾート課の担当の方の案内で現地に入ってみれば、空に駆け上がる ような胸迫る山波に終始圧倒されながら、八百年前のその昔、平家の落人が追っ手の 源氏に根絶やしにされることを恐れつつこの地で武器を捨てて山に守られ山に仕えて 生きることを選んだ理由や、二十一世紀の原作に込められた心優しいメッセージが、 薪で焚いた風呂のように、雨のなかで見上げる山崩れの跡のように、皮膚を通じて細 胞の奥へとじわじわジワジワと入ってくるような気がして、跳ねるように美味いやわ らかな水、命の力にあふれた食い物、そして暮らしを脅かす台風や鹿の被害を語りな がらも底に明るさをたたえた初めてでも懐かしい人々の笑顔に幾度も出会い、ああ、 ここは人を丸裸にしてすっぽり包み込んでしまう地場なのだと感じ入り、村を中心に けっこう遠い隣近所を見て回るうち、マニアにはきっとたまらない三百もの古墳群と 考古博物館(西都)、働くことは体を動かすことだと実感できるワーキングホリデー (西米良)、九州大学の演習林を活用したエコツーリズム(椎葉)、杉を二百年育て ることをビジネスモデルとする農林家の試み(高千穂)など、多彩なのは豊かな自然 だけではないと教えられ、宮崎といえばプロ野球やサッカーのキャンプ地として有名、 と思っていたら、サーフィンや山歩きといったフィールドそのものを愛するスポーツ も盛ん、波を待ったり、雲の流れを眺めたり、効率一辺倒の観点からは無駄とされが ちな間が必要な遊びがよく行われていると知って、そのことをとても嬉しく思いまし た。

 フィルム・コミッションの発足によって、映画製作も、地元の遊び仲間に加えてい ただければと期待しています。限られた時間のなかで、永遠を楽しむために。

荻田芳久 Ogita Yoshihisa
主な映画脚本には、宮本輝原作『幻の光』(是枝裕和監督/ベネチア国際映画祭金獅 子賞)、破滅への愛を謳う『ダンジェ』(福岡芳穂監督)、童謡詩人・金子みすゞの 生涯を追った『みすゞ』(五十嵐匠監督)、陶芸家・板谷波山の生き様を描いた 『HAZAN波山』(五十嵐匠監督と共作/ブルガリア国際映画祭グランプリ)などがあ る。

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